『そして誰もいなくなった』
3回目の紹介にして早くもメジャー中のメジャーなタイトルです。
産まれてから20数年、一度も読んだことのない私ですら結末と犯人は知っていたほどですから、どれほどメジャーなタイトルかは言うまでもないでしょう。
著者のアガサ・クリスティーの作品の中でも一二を争う知名度の作品でしょう。彼女が別名義で書いていた恋愛小説などであれば、このブログのタイトルにも相応しかったかもしれませんが……。
……と思ったのですが、こちらの方もかなりメジャーなようですね。レビューの数も多いうえに、過去にはミュージカル化までされています。
こちら以外にも恋愛小説を何作か執筆しているようなのですが、いずれも邦訳済みのようです。さすがミステリの女王。
少し脱線してしまいました。
このブログはタイトルこそ「マイナーな小説の感想を書くブログ」と銘打っていますが、その本質は感想の共有にこそあるのでこうしたメジャーな作品も時々取り扱っていきたいと考えています。
総評
あらすじはシンプルですが、あえて説明しましょう。
謎の人物によって無人島へと呼び寄せられた10人の老若男女が、童謡になぞらえて次々と怪死していく──
おそらく知っている方がほとんどでしょう。
クローズドサークルもののミステリー作品は多いですが、『そして誰もいなくなった』に影響を受けた作品はその中でもかなり多いのではないでしょうか。私が小中学生だった頃にも『うみねこのなく頃に』とか流行ってましたしね。嵐の中の孤島ものに触れたのはあれが初めてでした。
その他にも年代を跨いで多くのオマージュ作品や影響を受けた作品が散見されています。
手に取った理由も時代を超えて語り継がれる古典ならば、一度は読んでみたいというありがちな動機でした。
実を言うと、私は推理小説があまり得意ではありません。
楽しく読むことはできるので、正確には推理に参加することが苦手という方が正しいかもしれません。
文章から情景を正確に連想するのが苦手なせいだと思います。今作も崖から脱出可能かどうか調べるシーンは少し困惑しながら読んでいました。事細かに描写してくれればイメージもしやすいんですけどね……。
また、多数の登場人物を覚えるのも苦手で、同作者の『オリエント急行殺人事件』も遥か昔に途中で挫折しています。今ならさすがに読めるでしょうか……。
絶対に面白いに違いないという期待と、この小説を楽しめるだろうかというわずかな不安が離れず、はらはらしつつも読み始めました。
結果、
すごく面白かったです。
やはり名作というだけあって上手く無駄なくまとまっていますね。
犯人は知りつつも、最後までどういったからくりで犯行を最後まで成し遂げたのかはわからず読み進めていたのですが、意外と単純なトリックでしたね。医者を抱き込めば死んでいなくても死んだように見せかけることができる。近年の推理ものでは前提条件として語られることはあっても、実際にはなかなか見ないケースです。今作が有名すぎるのと、情報の絶対性が薄れると物語が破綻する事が多いからか外されてしまいがちなんでしょうか。そちらには明るくないので詳しい事情を知る方がいたら教えていただきたいです。
壜書が見つかるまで警察では黒幕の死亡推定時刻を前倒しに認識していましたがあれは誰の記録だったんでしょうか。まあたしかに記録をつけそうな人物しか残っていませんでしたが、もしも誰もそうしていなければ普通に犯人候補として列挙されていそうなあたり意外と綱渡りな計画ですね。……まあ最後には誰もいなくなる予定なので失敗したとしても失うものはないのでしょうが。
法廷で人間の心理をたくさん観察してきたからこそこうして人を集めて、ある程度の行動を予測、コントロールすることができたのかもしれませんが、冷静に考えると穴だらけのような気がします。
もしもアームストロングの殺害に失敗していたら?最後の二人が決裂せずに結託していたら?
とはいえ最初の死亡偽装の段階では死んでおらず、生き残って他のメンバーを監視していたので多少の失敗や不足であれば普通にリカバリーしそうですね。本当に危険なシチュエーションはといえば先述の医師の生還と最後の二人の結託ぐらいかと思います。
ただ結託しただけであれば小細工をして仲間割れを誘えばいいだけですが、「ニシンの燻製」の秘密と黒幕の生存に気付いて慎重に行動していた場合には結果は変わっていたかもしれません。それで正体を暴かれてもそれはそれで楽しみそうな人物ではありますが……。もう過半数の殺害は成功していますしね。
前回紹介した『蜘蛛の微笑』もそうなのですが、こちらも構成に無駄がなく程よい長さで上手くまとまっています。
あとがきで赤川次郎氏が結末を知っていても飽きることがないと述べているのも頷けます。クリスティーの他作は知らないのですが、クリスティーの作品の中でも一二を争う名作とされているのは納得できるような出来です。
危惧していた登場人物の多さも簡単に克服できました。
最初こそ冒頭の登場人物一覧と照らし合わせながらなんとか読んでいたものの、中盤になってくるとそれも不要になるぐらいには掴みやすい造形の人物がほとんどです。
これなら『オリエント急行殺人事件』も……と思ったのですが調べたところあちらはより人数が多いのですね。
……リハビリにはまだ時間がかかりそうです。