『ツヴァイク短篇小説集』

シュテファン・ツヴァイク1881年11月28日 - 1942年2月22日)は、オーストリアユダヤ作家評論家である。
1930年代から40年代にかけて大変高名で、多くの伝記文学と短編、戯曲を著した。特に伝記文学の評価が高く、『マリー・アントワネット』や『メアリー・スチュアート』『ジョゼフ・フーシェ』などの著書がある。
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』(シュテファン・ツヴァイク - Wikipedia
最終更新 2022年7月2日 (土) 13:39 

アクセス日時 2022年7月15日 (金) 19:45 

 

ツヴァイクは、日本だと歴史小説が有名でしょう。

特に『マリー・アントワネット』は漫画『ベルサイユのばら』の着想元となったことでも知られています。

 

この記事で紹介するのはそんなツヴァイク歴史小説……ではなく短編集です。

私がこのブログを開設する理由となった作品の一つでもあります。

 

この本へとたどり着いたきっかけは短篇アンソロジー世界堂書店』を買おうかどうか悩んでいる時。あらゆる感想を探して読んでいたのですが、その中でも評判が良かった作品がこの短篇集に収録されていたため大学図書館で借りて読むことにしたのです。

 

総評

この作品は、10篇から成る短編で構成されていて、そのうち9篇が『全集』にも未収録のものです。

ほとんどが初訳の作品で構成されているため、訳者の方がどこまで意図しているのか、あるいはツヴァイク自身の作風なのかはわかりませんが、自我の変容をテーマにした作品が多いように感じます。ある出来事を通して変わっていく、あるいはその逆で変化に適応できずに破滅を迎える……そういった作品を中心に構成された短篇集です。

収録作の一つ、「リヨンの婚礼」は一見違うかのように感じられますが、婚礼の儀式を結ぶ二人を取り巻く人々の心境の変化という軸に視点を置くとそういった条件に該当すると考えても差し支えはないでしょう。

 

あらすじだけ書くとなんでもない出来事、例えば大学デビューや初恋といった普遍的なものを取り扱っていることが多いのですが、この短篇集の強みはなんといっても心情描写の巧みさ。

作品によっては少々くどいと感じることもあるのですが、直接的な言葉だけに済まさず何行にもわたって積み重ねられた行動や比喩によってより読者の感情移入を誘います。

特に小説を書く方はツヴァイクの小説を一度読んで損はないでしょう。

ただ、やはりくどいので読み返すにはたいへん体力を使います。手元に置こうかと考えたのですが、新品を手に入れる手段が少ないのと、読み返す頻度が少ないであろうことを考えて断念しました。

文庫版が新しく販売されるか、あるいは電子書籍になってくれたら嬉しいですね……。

 

ビターエンドや、ハッピーエンドでもどこか作中にほろ苦いものを感じさせる作品が多く、そういった作品が好きな方にもお勧めできます。

上記で触れた『世界堂書店』の編集者の米澤穂信氏の著作はモロにそんな感じですしね。

 

人間は成長していく生き物です。環境の変化に従って新しいパーソナリティーを獲得し、かつての人格は捨て去るか鳴りを潜めるのが通例ですがそれに失敗した結果どうなるのかは言うまでもありません。成功しても失敗したとしてもいずれにしても待つのは死です。それがかつての人間性なのか社会との断絶なのかは分かれますが……。

この短篇集にはそういった思想が現れているのか、主人公の死で幕を閉じる作品が大半です。また、失敗の仕方も様々で、単純に環境に適応できずに弱い自己のまま死んでいくこともあれば、新しい人間性を獲得したはいいもののそれの持つ欠点を克服できずに自死を選ぶなど多様なパターンがあります。

上記のパターン以外だと在りし日の思い出というものにスポットを当てた作品が多いように感じますね。「昔の借りを返す話」「置きざりの夢」はこのパターンです。

両方を満たした「ある破滅の物語」のような作品もありますが……。

 

実を言うと、ツヴァイクの著作に触れたのはこの短篇集が初めてです。

上記の収録作の特徴から、ツヴァイク人間性の変容、あるいは在りし日の思い出といったテーマが好きなのだろうかと感じました。一番最初に収録されている「猩紅熱」は大学デビューに失敗する青年の話ですし。

青春時代の人間性の萌芽や、未熟ゆえのままならなさ、それでも過ぎ去った後には美しい過去のものとしてしまわれる思い出、そういったものへの思い入れを強く感じます。

米澤穂信氏がアンソロジーに選ぶのも納得の作風です。氏が選んだ「昔の借りを返す話」はこの中では人間性の変容にはそこまで重きを置いた作品ではないんですけどもね。

 

いずれの作品も読みごたえがあり、満足感のいく読後感でした。

あえて気に入ったものを選ぶとしたら「リヨンの婚礼」「十字勲章」「ある破滅の物語」でしょうか。一つに絞ろうかと思ったのですが、私には難しかったです。

 

ただ、この本感想やレビューが少ない。

読み終わった後感想を誰かと共有したかったのですが、既読の方も少なくたいへん歯がゆい思いをしました。『世界堂書店』巻末に載っていた米澤氏のそれぞれに対する短いコメントにすらもありがたみを感じてしまうほどに。

とはいえこの作品に限らず、短編集だとそれぞれの作品についての感想が少ないというのは珍しくもないんですけれども。

しかしもう少し読んでくれる方が増えてくれたら嬉しいですね……。新品の取り扱いが少ないのに加えて、近隣の公立図書館にも所蔵がないことが多く……。この記事を読んで興味を持ってくださる方がいたらぜひお手に取っていただきたいです……。

やはり文庫版か電子書籍の販売がほしいところです。

 

今回は総評として、全体をまとめて紹介しましたが、いずれ各作品の感想もそれぞれ記事にまとめたいと思います。

 

 

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